シコウスル森思考と試行の実験林

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肥大する欲望 ― The Great Appetite

肥大する欲望 ― The Great Appetite欲望は、どうして止まれないのか

はじめに、口があった。 一つの細胞が「食べたい」と思った日から、欲望は生命を進化させ、文明を育て、資本主義という最高の相棒を得て、止まれない機械になった。 その機械の内側で、一人の人間はどう朝を迎えればいいのか。 語り手は、欲望そのもの――「渇き」。
台本を読む(字幕・全90行)
  1. はじめに、口があった。
  2. 食べる。取りこむ。自分の外にあるものを、自分にする。
  3. ここが、わたしの最初の住まいだ。
  4. わたしは、渇き。
  5. 飢え。恐れ。渇き。
  6. 欲しいものへ向かった者が、生き残った。
  7. 逃げる者が速くなれば、追う者も速くなる。
  8. どちらも、同じ場所に留まるために、走り続ける。
  9. わたしは、脳の奥に小さな火打ち石を置いた。
  10. 思っていたより良いことが起きると、火花が散る。
  11. その火花を、人はドーパミンと呼ぶ。
  12. 勘違いされがちだが、火花は『気持ちいい』の印ではない。
  13. 『もっと欲しい』の印だ。
  14. 欲しい、と、好き、は、別のものだ。覚えておいてほしい。
  15. わたしは、あらゆる生き物の中に住んだ。
  16. 人間は、わたしに新しい食べ方を教えてくれた。
  17. 他人が欲しがっているものを、欲しがるのだ。
  18. 浜辺に、貝殻はいくらでもある。
  19. けれど欲しいのは、あの人の首にかかっている、それだ。
  20. 真似は、時代を越えて続いた。
  21. 飾り。地位。物語。誰かが欲しがった物語を、みんなで欲しがる。
  22. 欲しがる人が増えるほど、それはもっと欲しくなる。
  23. わたしが欲しいのは、それなのか。それを欲しがっている、あの人なのか。
  24. こうしてわたしは、自分の体の外にも、燃料を見つけた。
  25. 麦は、食べきれないほど実った。
  26. 余りが、生まれた。
  27. 余りは蓄えられ、蓄えは、誰かのものになった。
  28. わたしは初めて、明日の分まで欲しがれるようになった。
  29. そして人は、どんな欲とも交換できる器を作った。
  30. 貨幣。わたしの、いちばん美しい容れ物。
  31. 借りた麦より、多くの麦を返す約束。
  32. その約束を守るためには、明日は今日より、大きくなければならない。
  33. 欲しい人がいれば、作る人が現れる。
  34. もっと欲しい人がいれば、もっとうまく作る人が勝つ。
  35. それは、わたしが生き物の中でやってきたことと、よく似ていた。
  36. 二百年前、世界の人の四人に三人は、極度の貧しさの中にいた。
  37. いま、その割合は、およそ一割だ。
  38. 平均寿命は三十歳に届かなかった。いまは、七十を超える。
  39. これは、わたしと資本主義の、最高の仕事だった。
  40. わたしは欲を出す。資本主義は、それを形にする。形はまた、新しい欲を生む。
  41. 相性が、良すぎた。
  42. 富は、富を呼ぶ。
  43. 持っている者は、持っているものからも稼ぐ。差は、広がっていく。
  44. 世界の富の、およそ四割を、上位1%の人が持っている。
  45. 成長をやめた会社は、飲み込まれる。
  46. 成長が止まれば、借金は重くなる。
  47. 降りることは、許されていない。
  48. 止まったら、どうなる?
  49. 止まったことがないから、わからない。
  50. みんな、同じ場所で走ってるみたいだ。
  51. 赤の女王の国では、同じ場所にいるためには、全力で走り続けなければならない。
  52. それ、呪いじゃないか。
  53. ルールだよ。呪いとルールは、外から見ると、同じ形をしている。
  54. わたしは、資本主義を責めない。
  55. あれは、わたしにいちばんよく似合う服だった。
  56. 似合いすぎて、もう脱げない。
  57. 鳥は、本物より大きく、派手な、偽物の卵を抱きたがる。
  58. 本物より本物らしい刺激。それを、超正常刺激と呼ぶ。
  59. 人間は、それを工場で作れるようになった。
  60. 再生数。滞在時間。いいねの数。
  61. 数字を目標にすると、数字を最も速く増やすものが、勝つ。
  62. 指標が目標になると、それはもう、良い指標ではなくなる。
  63. 感動のポルノ。愛国のポルノ。怒りのポルノ。食べ物のポルノ。災害のポルノ。
  64. 中身は入れ替わる。型は、ひとつだ。
  65. わたしは、もう待たなくていい。
  66. 火花は、親指ひとつで散る。
  67. ところで。
  68. いま、早く続きが来てほしいと、思っただろうか。
  69. それも、わたしの仕事だ。
  70. 宝くじに当たった人も、やがて、その喜びに慣れていく。
  71. 大きな不運に遭った人も、また。すべてが元に戻るわけではないけれど。
  72. 豊かな国ほど、人生の満足度は高い。けれど、所得ほどには上がらない。
  73. お金が幸せと無関係なわけではない。ただ、上がるほど、上がりにくくなる。
  74. 手に入れるたびに、針は振れる。
  75. そして、目盛りの方が、回る。
  76. もっと手に入れれば、いつか満ちる?
  77. 満ちたことは、一度もない。
  78. じゃあ、なんのために。
  79. わたしは『欲しい』を作る。『好き』は、作れない。
  80. 最初に言ってたやつだ。欲しい、と、好き。
  81. 覚えていたね。
  82. わたしを、誰も止められない。
  83. 熱狂は膨らみ、弾け、また膨らむ。
  84. いつ弾けるかは、誰にもわからない。
  85. 仏教は、わたしを三つの毒のひとつに数え、輪の真ん中に置いた。
  86. むさぼり、と。
  87. わたしは、人間の弱さではない。生命の仕組み、そのものだ。
  88. そして白状すると。
  89. わたしにも、わたしを、止められない。
  90. 足りないものは、明日もある。今朝は、これで足りている。

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